新・駅前そぞろ歩記
館林から西小泉、そして東小泉から太田を結ぶ東武小泉線。のどかな農村風景を縫って延びる単線に2両編成の電車がことこと走ります。館林を発車して最初に停まるのは、成島駅。そして二つ目が本中野駅です。地図を広げて見てみると、この両駅は多々良沼の南側と西側に位置しています。北側には東武伊勢崎線の多々良駅があり、この駅から多々良沼に行くことが多いのですが、今回は本中野駅から冬の多々良沼に向かってみました。
本中野駅の小さな駅舎を抜けると、簡素な駅前広場から住宅が広がっています。ここは邑楽(おうら)町。高さ約60mの町のシンボルタワー「未来MiRAi」が遠くに見えます。
駅の近くには多々良(たたら)沼へと流れていく孫兵衛(まごべえ)川。川の土手には遊歩道「あいさつ通り」が延びているので、ここを歩いていけば多々良沼公園にたどり着きます。シロサギが小魚を追っているのか、川の流れに沿ってふわりふわり。周りは田畑や平地林など昔ながらの農村風景がまだまだ残っており、なかなか気持ちの良い散策路です。
20〜30分ほどで多々良沼公園にやってきました。公園近くの孫兵衛川沿いは、見事なサクラ並木です。
沼に突き出た半島状の台地に森閑とした空間が広がっています。鎌倉幕府滅亡の折、北条高時の弟・僧 慧性(えしょう)らが逃げ延びて築城した鶉うずら古城跡です。その後城主は変わっていき、天正年間に廃城。いまは土塁と空堀が残って往時を偲ばせています。
古城跡から130mに及ぶ藤棚のアプローチが導いてくれるのは、周囲約7㎞、約80ヘクタールの面積を有する広大な多々良沼。東毛地域では最大の池沼です。ヘラブナの釣り場としても有名で、一年を通して多くの太公望が訪れています。岸辺の湿地は水生植物の宝庫。
その環境は野鳥たちにとって格好のオアシスで、サギやカモたちの姿も見られます。その中でも特別な存在感を放っているのが白鳥。多々良沼は白鳥の飛来地として名を馳せています。
シベリアで繁殖するオオハクチョウやコハクチョウは冬に北海道や本州に渡って来て、餌が豊富な湖や沼などで過ごし、春に再び北へ帰ります。
多々良沼に初めて白鳥が飛来したのは昭和53年。以降、年によって差はありますが、11月中旬に飛来し、1月下旬から2月上旬に最も数が増えます。白鳥が再び北上するのは3月中旬。ここ数年の最高飛来数は300羽を超えています。
白鳥は主に、多々良沼の西隣にある小さなガバ沼に飛来。また、多々良沼には年間を通して棲みついているコブハクチョウもいます。
この白鳥たちを保護していこうと地元の人たちが「多々良沼白鳥を守る会」を結成。飛来時期には定期的に給餌を行っているので、そのときの白鳥たちのはしゃぎぶりも見応えがあります。
その一方、白鳥は警戒心が強く、危険な目にあった場
所へは近寄りません。白鳥が安心して越冬できるよう、観察の際にフラッシュを使った撮影など、白鳥を驚かせるような行為はしないでください。
多々良沼の西岸には沼にぐっと突き出した半島があり、浮島弁財天の赤い鳥居と社が建っています。これは鶉古城の築城に合わせて建立された鎮守さま。ここに立てば多々良沼の水面をほぼ360度見渡すことができます。
多々良沼を満喫した帰りは成島駅へと歩きます。本中野駅と同じく素朴で小さな駅舎。おや、駅前にはタヌキの像。そう、ここは分福茶釜で有名な茂林寺のある館林市。広大な多々良沼は邑楽町と館林市の境界に位置しているのでした。
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