新・駅前そぞろ歩記
今年の春、東武アーバンパークラインでは野田市内の清水公園駅~梅郷駅間が高架となり、それに合わせて愛宕駅がリニューアル。昭和生まれの小さな平屋建ての駅舎から、ホーム全体を包み込む大きくてモダンな高架駅に生まれ変わりました。駅の東側には、市役所をはじめ行政機関が集約。そして今回そぞろ歩きする西側には、駅名の由来となった愛宕神社や野田の醤油醸造関連の歴史・文化遺産が点在しています。
愛宕駅の西口に出たら、まずは野田三か町の総鎮守・愛宕神社へ。江戸・文政年間の社殿には見事な彫刻。上州花輪の彫物師・二代目石原常八圭信(つねはちもとのぶ)の作と伝えられる県の有形文化財。愛宕神社は火伏(ひぶせ)の神様で、また五穀豊穣の神様でもあります。さらに「愛児(あたご)様」とも呼ばれ、子どもの生育・成長の神様でもあるとか。
愛宕神社の境内と地続きにある西光院(さいこういん)の庭の奥に、「至徳泉(しとくせん)」という井戸跡が。明治に掘られた深い井戸で、水質がとても良かったため、各醤油蔵も井戸を掘り、川水の代わりに仕込み水に使うようになったそうです。
この周辺を歩くと煎餅店を見かけます。店先に立つと香ばしい匂い。野田の醤油と煎餅は切っても切れない関係。醤油作りに携わっていた職人が小腹が空いたときに、持参したおにぎりを焼いて醤油を付けて食べたのが野田煎餅の始まりという説も。
愛宕神社の西方には清水八幡神社。創建年代は不明ですが、室町時代に八幡宮を鎮座したという説あり。この神社は県の無形民俗文化財「ばっぱか獅子舞」が有名です。お腹(なか)の太鼓の音が「バッパカバッパカ」と聞こえることからこの名に。
野田市郷土博物館は昭和34年に開館した、県内で最初の本格的な博物館。郷土の歴史資料や民俗資料、考古資料などを展示・収蔵していますが、とりわけ醤油関係資料の豊富さは他に例がなく、別名「醤油博物館」とも呼ばれています。常設展示の押絵扁額「野田醤油醸造の図」は、明治10年の内国勧業博覧会に野田の醤油醸造仲間が合同で出品したものといわれています。蔵人たちによる仕込み、圧搾(あっさく)、樽詰めなど当時の作業が描かれていて、興味をそそられます。
博物館と同じ敷地に建つのが野田市市民会館。国登録有形文化財で、大正時代に建てられた醤油醸造家・茂木(もぎ)佐平治氏の邸宅が市に寄付されたものです。中庭を取り囲むように設計された純和風の主屋には大小10の和室があり、瓦、柱などすべて特別に注文したもの。また邸内には、台所や浴室、洗面所などに残る当時のままの照明や設備に感動。庭園もまた見事です。
郷土博物館のそば、大イチョウが目印の小さな公園・茂木佐(もぎさ)公園(野田児童遊園)も茂木佐平治氏の所有地で、塔柱に「遊楽園」と刻まれています。園内の稲荷神と龍神を祀る社殿には十六羅漢や花鳥魚類など見事な彫刻や錺金物(かざりかなもの)が施され、その職人技が光ります。
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