新・駅前そぞろ歩記
田園風景の中に佇む小さな楡木駅舎。鹿沼市の南端に位置する南押原地区は黒川の潤いに恵まれた肥沃な農地で、楡木駅がある楡木町はかつて例弊使街道の楡木宿だった歴史を秘めています。里山の散歩道には「お宝スポット」がいっぱい。南押原友遊館(地域住民の交流施設)ではレンタサイクルが利用できます。自転車でのんびりとアジサイの名所をめざします。
楡木駅のホームに降り立つと、駅前の「南押原ゆかりの児童文学者 千葉省三」という大きな看板が目に付きます。千葉省三は国語の教科書にも掲載される大正・昭和期の児童文学作家で、少・青年期を楡木町で過ごしました。楡木駅近くの千葉省三記念館には原稿や愛用品が展示され、千葉作品が読める図書コーナーが設置されています。「村童もの」と呼ばれる作品群には、楡木駅周辺を舞台にしたものが数多く見られ、記念館では作品ごとの舞台となった場所を地図パネルで展示しています。千葉文学に触れたことがある人なら、この地図を頼りにゆかりの場所を巡ってみるのも楽しいでしょう。
現代の楡木町に、かつての宿場の面影は残っていません。ただ、旧例幣使(れいへいし)街道と壬生(みぶ)街道の分岐点には「右中山道 左江戸道」と刻まれた江戸時代の楡木追分道標が、現代の町並みをひっそりと見つめているようです。
楡木町の産土神(うぶすながみ)は、楡木駅近くの小高い西山の麓に鎮座する楡木神社。千葉省三作品『お鎮守さまへとまったこと』の舞台です。
例幣使街道沿いの古刹(こさつ)・成就(じょうじゅ)院の境内には、珍木とされる「しだれあかしで」の古木があり、県の天然記念物に指定されています。
楡木駅の南西方向には、日光開山の勝道上人により765年に創建されたとされる医王寺があります。阿吽(あうん)の金剛力士が睨みを利かせる仁王門をくぐると、約3万坪の境内には茅葺(かやぶ)きの金堂や唐門、大師堂、銅板葺きの講堂、客殿など、おもに江戸時代中期の建築が建ち並んでいて壮観です。縁起によると、空海が医王寺を鎮護国家の道場とし、その後に高野山を開創したことから、同院を「東高野山」と呼ぶようになったと伝えられています。
磯山神社もまた千年以上の歴史を誇ります。近年は北関東有数のアジサイの名所として知られています。スギ木立の参道や社殿周囲に植栽された28種約2500株のアジサイが6月下旬~7月上旬にかけて青、紫、白の花を競い合って咲かせ、スギの緑と素晴らしいコントラストを見せるのです。開花時期には「あじさい祭り」が開かれ、夕刻には参道のアジサイの上に提灯が灯され、幻想的な風情が醸されます。
また、磯山神社近くの水田では、地域住民ら「磯町の自然を守る会」が毎年、田んぼアートを制作。道行く人を楽しませています。6月中旬に色違いの苗を使って田植えをすると、見事な地上絵が出現。今年の絵のテーマは鹿沼市の特産「イチゴ」です。お楽しみに。
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